SS企画「一枚絵で書いてみm@ster」参加作品です。
お題となった一枚絵はこちら
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拝啓、プロデューサーさん。
お元気ですか?
千早ちゃんとプロデューサーさんがニューヨークへ旅立ってから、もう、半年が過ぎましたね。
2人と別れてから、私と伊織で組んだユニットも、もうCランクに上がりました。少しはそちらにも私達の活躍が届いてると良いんですけど。
ニューヨークは東京より寒いって聞いてます。風邪なんて引いてませんか?
あ、そうそう。東京ではこの間、雪がふったんですよ?なんでも何十年振りの大雪なんだそうです。
なので、伊織と一緒に雪だるまを作りました。結構可愛く出来たので、写真も一緒に送りますね。
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こんな所かな?と、私はペンを置いた。
海外へ旅立った千早ちゃんとプロデューサーさんに手紙をかくのも、もう何度目だろう。返事は、あんまり帰ってこない。2人とも、きっと忙しんだよね…きっと…そうだよね…。
「まったく、春香もアナクロね。そんなの、メールで済ませりゃ良いでしょうに」
手紙を書く度に、伊織にそう、笑われる。「たしかにそうかも知れないね」なんて私は笑い返す。
私と千早ちゃんがユニットを組んでた頃、伊織は一人でずっと活動してた。
「一人の方が気楽よ」っていつも言ってた伊織が、こうして私と一緒にユニットを組んでいることが少し不思議だった。
相変わらず憎まれ口ばかり叩く伊織だけど…それも悪くないと、最近は思ってる。
けれど…ごめんね、伊織。
私…やっぱり寂しいよ。
大好きだった…。私…千早ちゃんも、プロデューサーさんも、大好きだった…。
逢いたいよ…。今すぐ…逢いたい…。季節が巡って風が冷たくなるほど、私のぽっかり穴が空いたみたいな心が震えて、たまらないよ…。
でも…逢えない。
また、2人の笑顔に逢えるってそう思い続けて、もう半年も過ぎてる。
大好きな2人に逢えない寂しさを、大好きな歌で紛らわせようと、レッスンに打ち込んだ…。私、今では千早ちゃんに負けないくらい、歌が上手くなったって評価されてる。…でもそれは、私がそれだけ寂しかったってことなんだよね…きっと…。
そんなある日、1通の手紙が事務所に届いた。
プロデューサーさんと千早ちゃんが帰ってくる…。少しの間だけど、日本に帰ってくるって!
都会には不釣合いが雪が溶けた頃、私に届いた春の便りだった。
■■■
「もうすぐ、2人が出てくるね!伊織!」
2人が帰ってくる日、私たちは無理をいってオフにしてもらった。
誰よりも最初に、2人に逢いたかったから。
誰よりも最初に、「おかえり」って言ってあげたかったから。
「そうね。それにしても春香?」
「なに?」
「アンタが本当に会いたいのはプロデューサー?それとも千早かしら?」
「え?…そ、そんなの、決められないよ?!」
伊織の意地悪な言葉に、身悶えてた頃、丁度千早ちゃんとプロデューサーさんの姿が見えた。ちょっとだけ呆れ顔だった。
「まったく…向こうの方まで春香の声、聞こえてたわよ?2人とも有名人なのだから、自重しなければ」
「エヘヘ…ゴメン…。でも、おかえり!千早ちゃん!」
「フフフ…ありがとう。そして、ただいま、春香」
ホントは抱きつきたかったけど、ちゃんと自重したよ?だから後で褒めてね、千早ちゃん。
■■■
「変わらないわね…ここも。懐かしいわ」
確かに相変わらずちょっぴりソファの固い事務所の応接室で、皆でお茶を囲む。ちょっと前までありふれた光景だったのに、今ではまるでダイヤモンドみたいに貴重な光景に見えた。
「エヘヘ。レッスン場も千早ちゃんが使ってた頃のままだよ?後で行ってみよっか?」
自分でも分かるくらい、声が弾んでる。
千早ちゃんやプロデューサーさんが笑顔を見せる度に自分の笑顔がはち切れそうになるのが分かった。
でも…一人だけ…伊織だけ顔色が冴えない。
「…伊織?どうしたの?さっきから黙ってるけど?」
「…別に…」
「伊織?どうしたんだ?さっきから千早を睨んでるみたいだけど…?」
「水瀬さん?私…何か悪いことしたかしら?何か言いたいことがあるなら…」
プロデューサーさんも千早ちゃんも、伊織を心配して話しかける。でも、その都度伊織の表情は不機嫌になっていった。
「そうね…言いたいことあるわ…。ねえ?千早?」
「何かしら?」
「さっきからチラチラ見たり、触ったり…そんなにその左手の薬指の指輪が大事?」
「え?…そ、それは?」
え?…指輪…?ホントだ…千早ちゃんの指に…綺麗な…指輪。
アクセサリーなんて、プライベートでは殆ど着けたことが無かったはずなのに…。
「勿体ぶらないで、ちゃんと見せたらどう?ブルーサファイアの綺麗な指輪ね。サムシングブルーって言ったところかしら?お似合いよ?すごくね。誰からもらったのかしら?」
「水瀬さん…」
「考えてみりゃ、この間あなたの誕生日だったものね。16歳の誕生日おめでとう、千早。そう言えば、日本の法律じゃ結婚も出来る歳になったわね?」
「私は…そんな…」
「これからのご予定は両親に挨拶かしら?それとも弟のお墓に報告?それとも…」
??もうやめて!!??
「春香…」
「酷いよ…伊織…。千早ちゃん、久しぶりに逢えたんだよ?なのに…そんな問い詰めるみたいに…ヒドいよ!!」
私は、その場を飛び出した。ううん…逃げ出した。
ホントは…聞きたくなかっただけなのかも知れない。プロデューサーと千早ちゃんが…そういう関係だって…。
ホントは…分かってたのに…。あの日…ラストライブでプロデューサーさんに告白しても受け入れられなかったあの日から、分かってたのに…。
けど、認めたくなかった。
離れていても、私たちは繋がってるって…思っていたかった…。
でも…もう…違うんだね…戻れないんだね…。同じ空を見て、同じ夢を見てたあの頃には…もう、戻れないんだ…。
■■■
気がつくと、私はレッスン場にいた。
千早ちゃんと、プロデューサーさんとの思い出が、一番詰まった場所…。そして、私が2人を思って、一番涙を流した場所。
でも、もう、終りにしなくちゃ…。
うん、もう、泣かない!ちゃんと、笑顔になれる!…きっと…大丈夫
「やっぱりここにいたのか…春香」
不意に聞こえたプロデューサーさんの声に、ふと、涙がこぼれれそうになるのをこらえた。
「プロデューサーさん…」
「伊織が、ここじゃないかってさ…」
「伊織が…?」
「伊織…心配してたぞ…?」
「嘘です…さっきだってあんなこと…」
「違うんだよ…伊織が言いたかったことは…」
「え…?」
「お前が出てった後、伊織に言われたよ…”春香がアンタたちに逢えるの、どんなに楽しみにしていたのかわからないの?もっとあの子のこと見てあげてよ!そんな指輪より、春香の方がもっともっと、アンタたちにとって大事だった筈でしょうが!!”ってさ…」
「伊織が…そんなことを…?」
「心にグサリと刺さったよ…。勿論、そんなつもりが有ったわけじゃないけど…俺たちが知らずに春香を傷つけてたんだなって…」
「そんな、プロデューサーさん…私、そんなこと…」
そんなことありません、と言おうとしたのに、何故か私の口は動かなかった。
どうしてだろう…伊織の言葉を聞いて、少し心が晴れた私がいる。
「なあ…春香…?」
「何ですか?」
「どうして、俺がここに来たと思う?春香の居場所に先に気付いたのは、伊織の方なんだぜ?」
「それは…?」
「伊織がさ、言うんだよ”今の春香は出会った頃の千早みたい”だって。”大切なものを失くして、自分には歌しか無いってレッスンに打ち込んでる姿を見ていられない”って。”私が側にいてあげても駄目だから…悔しいけど、アンタが行くしか無いじゃない!”ってさ…」
「伊織…」
「素直じゃないだろ?…ああ見えて不器用なんだよ、アイツ。…まあ、俺が言えたことじゃないけど」
そう言って微笑むプロデューサーさんの笑顔に釣られて、私も少し微笑んだ。良かった…私、まだ笑える…。
不思議だな…さっきまで世界で私だけ独りぼっちみたいに寂しかったのに…。
私は…ずっと一人じゃなかった。…千早ちゃんとプロデューサーさんがいなくなっても、一人じゃなかった。
ただ、振り返れば良かった。振り返ればそこに、あの人がいたんだから。
昔の千早ちゃんも、そうだったよね。
たった一度だけ振り返ってくれれば、そこに私と、プロデューサーさんがいたんだ。
そして今、私が振り返った先にいるのは…
■■■
あれから1週間が過ぎて千早ちゃんとプロデューサーさんはまた、ニューヨークに行ってしまった。
やっぱり見送りに来た私は泣かない様にするのが精一杯で、「さよなら」も「またね」も言えなかった。一緒に見送りに来た伊織は、とっても不満そうに、でも私の気持ちを代わりに話してくれた。
けれど、ゴメンね…伊織。
私…やっぱり寂しいよ。
でもね、ありがと…伊織。
伊織がずっと手を繋いでいてくれたから…寒くなかったよ。
気が付けば、外は暖かな日が差していた。
新緑の季節はまだ遠いけど…それまで手、繋いでて良いかな?
ね、伊織…。
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そうなんですよね。
仮にプロデューサーが1人だったとして、
その1人が誰かのプロデュースを完璧にやり遂げたら、
もちろんこういう結果が起こるんですよね。その背後で。
そういう意味で、とてもリアリティがあって、切なくて、
登場人物がそれぞれに、それぞれらしいと感じました。
伊織のシーンが直接出ず、
プロデューサーの口から語られるせいで、
「それを思い描いて、想いを推し量る」というプロセスを
読者として、春香と共有できたのが良かったです。
この世界だと、律子さんもまだアイドルとして頑張ってるのかな。
世界進出の第一歩として、アジアに行ってるかもしれませんね。
春香のハートブレイクな一編でしたね。出会った大切な2つの宝物が、目の前から消える哀切の念が伝わり、胸が苦しくなりました。口は悪いが春香に負けない優しさを持つ伊織の言動が美しいです。伊織がいれば春香も早くに立ち直れる、そう確信させるラストでした。
>ガルシアさん
すいません、またプラグインが悪さしてました。
そうですね。ユニットをプロデュースする場合、エンディング後どうなるのかと思って、お話を広げた部分はあります。
Melted Snowをモチーフにした話しをもう、1年くらい前から考えていて、今回に丁度いいかなと、作品に仕上げてみました。
伊織は素直じゃない娘ですから、直接優しい言葉をかけたりはし無いかなと思って、極力セリフを少なくしました。
>月の輪P
どうもです。
春香と伊織って言うと、自分の中ではどうしても、春香を伊織が助ける、っていう感じになってしまいます。
春香も優しいんだけど、伊織もきっと優しい女の子だって、思いたいんですよね。きっと2人は仲良くなれるはずだと。
人って本当に不器用なんですよねぇ
あれもこれもてにいれようとすると必ず何か手からこぼれて
そのこぼれたものばかりみてしまって 自分の手に残ったものに
見向きもできない・・・ 本当に大切なものって実際
自分が見てないところにあるんですよね
失うことがあっても、失わないものがある
失っても、新しく手に入るものがある
伊織も何か失うことがあっても、今手にある大切な
春香がいれば・・・ですね
>トリスケリオンさん
どうもです。
そうですねー。特に10代の女の子が、そんな上手く世間を渡れるはずが無いですし、どうしても不器用な付き合い方になってしまうと思います。春香も、伊織も、千早も。
大切なものは案外近くにあるものだっていうのは、ありきたりだけど、真実だと思うんですよね。
遅くなりましたが、感想をば。
春香の感情の振れ幅が物凄くビビッドで、切ない。
大切にしていた何かが、乾いた音を立てて砕けた瞬間が
全部言葉になっているようで、胸を締め付けられる想いでした。
大なり小なりそういう経験を通じて、人は成長していくのだろう、
などと言うと口幅ったいですが……。
>微熱体温さん
どうもです。
そうですね。このお話の春香は、少しだけ周りが見えるようになって、少しだけ成長しているんじゃないかなと、そう思っていただけたらなと思います。
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