SS企画「一枚絵で書いてみm@ster」参加作品です。
お題となった一枚絵はこちら
意識の虚ろい始めた私は、動きの鈍くなった右手で携帯電話を開く。
待ち受けには、白い世界で満面の笑みの春香、憎たらしい表情の伊織、そして…お姫さまティアラを着けた雪だるま。
この写真の風景に、私はいない。
春香に、伊織…そして私、秋月律子。
私たちは3人で一つのユニットだったのに。
私たちはいつも一緒のはずだったのに。
ある時、北海道でのイベントの仕事が舞い込んだ。
しかし、私だけレギュラーの生放送と被ってしまい、行くことが出来なかった。
そのお詫びにと、飛行機の手配など出発前の雑務を全て私が請け負った。事務仕事には慣れていると、そう思っていた。それが慢心とは気づかずに。
私が予約した飛行機は、結論から言えば時間が滅茶苦茶だった。
行きは行きで余裕がありすぎて、帰りは帰りで余裕がなさすぎた。
未だになぜそんなミスをしてしまったのか分からない。…何度自分に問いかけたか分からない。
それが…あんなことになるなんて…今でも、信じられない。
あの日…帰ってくる春香達を迎えに空港へ来た私と小鳥さんは、見てしまった。
燃え盛る赤い炎を。絶望を表す灼熱の炎を…。
その事故は、後に今世紀最大の飛行機事故と言われた。
全ての乗客乗員の生命が、爆炎と獄炎の中に呑まれた。
そして…私と小鳥さんが迎えた春香と伊織は……思い出したくない。
思い出したくない!あんな…あんなこと…。
”人”と判別ができるだけマシ…そんな慰めの言葉なんて、あるものか!
あの日以来、私は何もできなくなった。
目の前の全てが灰色に映り、口にするもの全てが苦くなり。耳にするもの全てにノイズが入った。
私のミスが2人の全てを奪ったのだから、それも当然かと思った。
それでも、私が生きている理由…それはたった2通のメール。
「律子さんのお陰で、仕事の前の時間でこんなかわいい雪だるまが出来ました!だから気にしないで下さいね」という、春香らしい優しいメール。
「ちょっと見てよ。このブサイクな雪だるま。あー早く帰りたいわ。ま、誰かさんのお陰で急ぎ足で帰れるから、大丈夫かしら。律子も小さいこといつまでも気してるんじゃないわよ」という、伊織らしい、小憎らしいメール。
2通とも、同じ写真が添付されていた。
「気にしないで」って2人が言ってくれてる。それだけを頼りに、生きてきた。
…分かってる…欺瞞だと…。単なるごまかしだと。
だから、もう、終りにする…。もうすぐ、終りになる…。
ねえ、春香、伊織…もうすぐまた、逢えるよ…。
■■■■
■■■
■
?スッパーン?
「ピヨ???!!り、律子さん、何をするんですか!!」
「それはこっちの台詞です!いくらなんでもその妄想は不謹慎すぎます!!」
痛たたたた…。だからってそんな目一杯ハリセンでしばかなくても…。
あ?ご挨拶が遅れました。私、765プロで事務員などをやっております、音無小鳥と申します。
皆さん、びっくりしました?大丈夫です。これは私の妄想ですから。
でもね、飛行機事故があったのは本当なんです。幸い、乗員乗客に大きなケガはなく、今は春香ちゃんも伊織ちゃんも揃って無事に事務所に帰還となりました。
「まったく、私の可愛いおでこにタンコブができちゃったわ。航空会社に慰謝料請求したいくらいよ!」
「まあまあ、伊織ちゃん。そんな事言うと、律子さんがまた泣いちゃいますよ?」
「ちょっと、小鳥さん!私、そんなこと…でも、本当に…良かった…」
「ほらほら、言ってる側から…。大丈夫。もう、大丈夫ですから…」
事故があったと聞いてから、2人の無事が分かるまで、律子さんの焦燥振りは目を覆いたくなる程でした。
無事が分かってからも、ずっと、こんな感じで…。それくらい、2人のことが心配だったんですね。
ですから、この不肖、音無小鳥が一肌脱いで、この場を笑い話にでもしようと思って妄想を披露してたんですけど…。
「どこが笑い話ですが!どこが!」
あうぅ…怒られちゃいましたね。でも、律子さん、ちょっといつもの感じが戻ってきたみたいです。
きっと、律子さん…こうでもしないと押しつぶされちゃうから…。
「まあまあ、とりあえず、コーヒーでも入れて落ち着きましょう。私、ちょっと給湯室に行ってきますね」
ちょっと騒々しさから離れた給湯室。
その扉を閉めた瞬間、足が震えて止まらない。肩も、唇も、まるで自分のものじゃ無いみたいに、震えています。
「良かった…。本当に良かった…」
ズルイですね…私は…。
本当は、自分が一番押し潰されそうだったのに…。
だって、そうじゃないですか。飛行機の手配なんて雑事、本当は私の仕事なんです。
それを律子さんだけに任せて…。律子さんだって、最近アイドルランクが上がってきて、忙しいはずなのに、そんなの、私だって分かっていたはずなのに…。
確認する手段も、方法も幾らでもあったのに。
甘えてますよね、私…。皆より歳上なはずなのに…。
それだけじゃない…。
律子さんが狼狽している姿を見て、安心している私がいる。
律子さんの責任感に乗じて、自分の責任から逃げようとする私がいる。
ズルい…こんな大人になんてなりたくなかったのに…ズルい…ですよね。
「小鳥さん?コーヒー入れるの、私も手伝いま…え?」
急に入ってきた律子さんに顔をみられたくなくて、ギュッと抱きしめる。
皆が思っているよりも、華奢で、小さな体。でもその中の心は、とても暖かくて…。
「こ、小鳥さん…?」
「ごめんなさい…でも、もう少しこのまま…」
私は、そのまま、赤ん坊のように泣き続けた。何度も、何度も、「ごめんなさい」って叫びながら。
誰にも、こんな姿見せたくなかった。
誰にも、こんな姿見せちゃいけなかった。
ズルい大人のくせに、子供のように甘えるなんて出来ない筈なんですから。
「大丈夫…。小鳥さん、もう、大丈夫だから…」
でも、どうしてだろう。律子さんの胸の中だったら、素直になれる気がする。
それも、私のズルさなのかな…。でも…。
律子さんが、ギュッと力を込めて抱きしめてくれる内は…少しだけ、甘えても…良いですか?
■■■
「まったく、たかがコーヒーにえらく時間がかかると思って見てみたら、2人してわんわん泣いてるんだもの、びっくりしたわ!」
「そ、それはその…ピヨピヨ…」
「もう、しょうがないわね。飛行機事故のことは、誰のせいでも無いって言ってるでしょ?春香からも言ってやってよ!」
「そうですよ。小鳥さん、律子さん。あれは、誰にも分からないし、予測が付かないことですから。2人が責任を感じることなんてないんです!」
「春香ちゃん…伊織ちゃん…」
「そりゃ、ちょっとは怖い思いもしましたけど、ほら、お陰でテレビや雑誌の取材がたくさん来てますよ?ね?伊織」
「そうね。律子的に言うと怪我の功名って奴かしら。にひひ!どうしたの?律子?笑いなさいよ、ほら!」
「春香…伊織…そうね…フフフ…」
参りましたね…。春香ちゃんも伊織ちゃんも、私達が思ってるより、ずっと大人だったみたいです。
こんな駄目でズルい大人の私だけど…でも、でも、もう少し…
?もう少しだけ、甘えてもいいですか??
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小鳥さんの妄想で良かったです。心底。
いや、良くないか。変な妄想するなよー。驚くじゃないかー。
まさかの4作目。お疲れ様です。
どちらかというと縛りがきつい絵だと思うのですが、
その発想と筆速に、心からの敬意を。
小鳥さんも律子さんも幸せそうで何よりです。
冒頭の展開にはエシディシ並に「う?ううう、あんまりだ…HEEEEYYYY! あんまりだァァァァ!!」と思ったのですけど――安心しました。律子はピヨを殴って正解です。まあ小鳥さんもそのぐらい精神がデンジャゾーンにいったんですしょうけど。結果オーライです!
>ガルシアP
どうもです。
驚かせて申し訳ないです。
実は、最初は前半部の流れだけで進めようと思ったのですが、そりゃあんまりと思ったので、小鳥さんに少し悪役になってもらいました。
正直4作描かせてもらいましたけど、中にはあんまり1枚絵が関わってないのもあったので、そこは反省点ですね。
>月の輪P
どうもです。
律子も小鳥さんも、きっと弱いところがあるんだろうなーと思って書きました。そして、そういった部分を包めるのがお互い様なんじゃないかと。
とりあえず読み始めに「ええっ!」と思わせておいて、一瞬緩んで……
と言う緩急の付け方は、今後いろいろ手本引きさせていただきたい程に
繰り返し読みました。小鳥さんの妄想はエラいことをしますね。
ダメでズルい大人なんて、実際問題掃いて捨てるほど居るわけで、
僕も間違いなくそういう大人なわけですが、ズルくなければ
いろんなモンに押し潰されてっちゃうと思うんですよね。
でも、そうやって逃げ回ってるといつかどこかでツケがくる。
微妙に社会人の教訓めいたものを感じたり。本筋と違うと想いますが(汗
>微熱体温さん
正直、前半部のショックが大きくて、後半部のお話が霞んでいる点は反省点かなと思います。
小鳥さんは若い女の子を相手にする手前、ズルイ大人になりきれない部分があると思うんですよね。
でも、ちょっとくらいなら、甘えても大丈夫。みんな、小鳥さんが思ってるより、成長してるから…なんていうのが、個人的な考えだったりします。
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